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【小説】「そして、バトンは渡された」大絶賛の本屋大賞受賞作を大絶賛したい!

「そして、バトンは渡された」

文藝春秋

著者 瀬尾まいこ

文藝春秋 発行

2020年9月10日 第1刷

 

この物語は、不幸な物語ではありません。親から親へと大人の都合でリレーされ、その度に別れを繰り返し苗字が替わり、それでも愛情を受け真っすぐに育った少女は最後の親である父親と二人暮らし。悲しいことが無かったわけではないが決して不幸でもなかった優子と、親たちの絆の物語です。

 

 

 

あらすじ

幼い頃に母親を亡くし、実の父とも海外赴任を機に別れ、継母と暮らすことになった優子は、その後も大人の都合で転々と住む場所を変え親が替わり、高校生となった今は血の繋がらない20歳しか年の離れない父と暮らしている。実の父との別れ、血の繋がりはなくとも愛情を一心に注ぎ育ててくれた継母。その再婚相手となった新しい父との不器用な距離の絆。そして、高校生となった優子を受け入れ精一杯向き合ってくれた”最後の父親”。それぞれの親と暮らした日々は優子にとって辛いものではなく、確かな愛情を感じられる日々。そして多感な高校生と向き合い育ててくれた父森宮さんとの日々は優子にとって確かな帰る場所となっていき…。


 

感想

母の死や実父との別れ、親と親との間をリレーされ、住む場所も苗字も変わり、それでもこの主人公は真っすぐに育っていました。聞いただけで同情してしまいそうな生い立ちにもその時その時にたくさんの愛と決断があり、冷静に受け入れてきた優子の強さを感じました。女子高生ならではの戸惑いや悩みがありながらも強く前を向いていく姿には感心させられ、それを支えている森宮さんとの生活が素敵で、愛情や絆が絶えずあったからこそ不幸ではなかったのだと思います。もちろん実の母の死は記憶にはなくとも心の傷になっているし、実父との別れは子供には耐えがたい寂しさがあったのだと思いますが、それ以上に周りの人々の愛情が優子の支えとなり強さと明るさ、冷静さに繋がりました。親になる事は、難しいと感じる事が多いと思います。もちろん楽しさや幸せが勝るもので、子供の笑顔は何よりの幸せ。それは血の繋がりがなくても形が違っても、そこに確かに存在する愛情で築き上げられるのだと教えられました。二番目の母である梨花さんは母親になった事を「私、すごくラッキーなんだよね。」と言いました。すごく楽しいし、お得!と。そして、高校生になってからの父親森宮さんも梨花と同じように親になった事を喜んでくれていた。そして責任を持って決断したこの生活を手放したくないと言ったところにグッときました。優子もまたそんな森宮さんとの絆を確かに感じ、「この暮らしをこの家を、私はどうしたって守りたい。」と思うのでした。こんなに真っすぐに愛情を示してくれる”親たち”に守られ、時に振り回され、家族の形が何度も変わっても、注がれた愛情に答え幸せになる姿と父の愛に感動で胸がいっぱいになる作品でした。

 

 

おわりに

この作品について、全くの先入観ゼロで読み始めたわけですが、初めから凄い勢いで引き込まれました。文章がとにかく上手で(作家さんに対してこんな語彙力ない褒め方は適切では無いのですが…)本当に引き込まれる展開と、セリフ、感情の描き方。瀬尾まいこさんという作家さんは本当に素晴らしいと感じました。物語で、過去の事を書いて行ったり来たりする混乱しがちな流れでも、しっかり心情と状況が伝わり優子への理解も深まりどんどんハマっていきます。素晴らしい作品に出会えて、周りにも伝え広げて行きたいと思わされました。そして、同名の実写映画も気になるところ…実はまだ観られていません。またそちらの感想も順次追加して行きます。

「そして、バトンは渡された」ぜひ読んでみて下さい!