【映画】「コーヒーが冷めないうちに」
2018年9月21日に公開された、小説「コーヒーが冷めないうちに」「この嘘がばれないうちに」(著者 川口俊和)を元に制作された映画です。2019年42回日本アカデミー賞では話題賞を獲得した作品で、主演に有村架純さん、伊藤健太郎さん、波瑠さんを迎えた、爽やかな印象の映像で魅せられる感動の物語です。同タイトルの原作に続編の「この噓がばれないうちに」の内容を混ぜ込んだストーリーで原作の設定とは異なる点もあるこの作品は、原作ファンのみならず、映画としての魅力も高い一作となっています。
あらすじ
「過去に戻れるって本当ですか?」
喫茶店フニクリフニクラには、過去に行くことができるという都市伝説がある。その不思議な噂を聞いた人々が今日もこの喫茶店を訪れる…。ただしその時間旅行には、それはそれは面倒くさい、非常に面倒くさいルールがいくつも存在している。
過去に戻って何をしても現在(未来)を変える事はできない。
過去に戻れるのはその喫茶店のある席に座った時だけ。
その席には先客がいて、座れるのはその先客が席を立った時だけ。
過去に戻れる時間は、注がれたコーヒーが冷めきるまでの間そして冷めるまでに飲み干さなければいけない。
この喫茶店に訪れたことのない人には会うことはできない。
それ以外にも細かいルールはいくつも存在している。こんなルールを聞いて実際に過去に行ってみようとする人はほとんどいなかった。だって何をしても未来は変えられないのだから…。そんな不思議な噂にすがるように訪れるキャリアウーマン、若年性アルツハイマーを患った妻を見守る夫、故郷に妹を残して家出しスナックを営みながら妹に会う事を拒み続けた常連客。そしてこの喫茶店で働く時田数。数に惹かれていく常連客の大学生。それぞれが紡ぐ感動のストーリーです。
感想
原作「コーヒーが冷めないうちに」「この噓がばれないうちに」から内容を混ぜ込みつつも違った設定で独自のストーリー展開を魅せる本作は、主演の有村架純さんの瑞々しさ、助演の俳優陣の演技力で涙なしには見られない作品となっていると思います。また原作とは少し違った喫茶店の内装のイメージにも映像作品ならではの綺麗な描写が引き込まれます。そして、数と大学生新谷亮介との展開も、映画でこその感動と映像の美しさに心動かされました。なんと言っても、俳優さんたちの演技力に圧倒されます。若年性アルツハイマー型認知症を患った妻を、看護師としてでもそばに居たいと見守り続ける夫を演じるのは、松重豊さん。妻役を薬師丸ひろ子さんが演じています。原作では夫婦の立場が反対なのですが、そんな事はまるで感じないほど素晴らしい脚本でした。原作の方に俳優さんを当てはめてみても想像がつくほどお二人の自然な演技に涙が止まりません。特に夫が過去に戻り、妻に嘘をつくシーン。相手のことだけを想ってつく嘘に、胸が苦しくなるのと同時に、妻もその嘘を分かっているというのが本当に心に響くシーンでした。亡くなった妹に会いたい姉を演じたのは吉田羊さん。まさに迫真の演技です。もう一度だけあの子の顔が見たい、と取り乱す姿は胸を打たれます。先にお話しした”原作とは少し違ったイメージについては、個人の感想なのでそれぞれの感じ方なのですが、原作でのフニクリフニクラは地下にある窓一つない薄暗い店内をアンティークな照明がセピア色に染めている落ち着いた雰囲気だと思います。映画でのフニクリフニクラは窓がいくつもあり明るい印象。自然光が素敵な店内で居心地の良さそうな喫茶店という感じです。そして、原作でのタイムスリップの時の体が湯気のようにゆらゆらとなりめまいのする感覚の描写は、水の中へ投げ落とされたように沈み込む表現になっていました。このように原作とは若干(個人的に)イメージの違う表現や設定の違いこそあれど、映画ならではの美しさはさすがの一言です。有村架純さん演じる時田数は、人との関わりを極力持たないよう過ごしてきました。そんな数に惹かれていく常連客の大学生新谷亮介(伊藤健太郎さん)とのクライマックスに向けての柔らかな時間と胸の詰まる想いをとてもきれいに描かれていて、これぞ有村架純!というくらい王道ラブストーリーを演じてきた彼女だからこそだと思わされました。
おわりに
映画「コーヒーがさめないうちに」は、原作に忠実だけれども違った点もあって、世界観を壊すことなく美しく描かれた作品だと思います。原作を読みながら映画のキャストを当てはめても面白いです。(これはよくやってる私の楽しみ方ですw)こちらの映画は現在Amazon primevideoとNetflixで視聴することができます。原作小説のレビューも書いていますので是非ご覧ください!