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【小説】「さよならも言えないうちに」レビュー

「さよならも言えないうちに」

サンマーク出版

 

著者 川口俊和

サンマーク出版

2021年9月20日初版発行

 

 

コーヒーが冷めないうちに」「この噓がばれないうちに」「思い出が消えないうちに」に続く第4作品目。この作品は、「思い出が消えないうちに」の発売から3年の月日を経て、待望の出版となりました。もちろんこのシリーズのファンであれば待ち望んだ新作となったのですが、初めてこの作品に出会った人にも心に刺さる作品であったのではないでしょうか?何よりこの作品で描かれた題材として「東日本大震災」の背景があり、現在のこの状況において今一度振り返り、悼み、また歩き出す気持ちをを与えてくれるのではないかと感じました。フィクションではありますが、胸に刺さる気持ちと、人の温もりに救われる気持ちになります。

 

 

あらすじ

「過去戻っても、現実が変わらないことは、わかりました。では、過去に戻って会った相手の、”記憶はどうなるんですか?」
とある街の、とある喫茶店の、とある座席には、不思議な都市伝説がある。それは、その席に座っている間だけ、過去に戻る事ができるというもの。ただし、そこにはめんどくさい、非常にめんどくさいルールがある。

1、過去に戻っても、この喫茶店を訪れたことのない者には会うことができない 

2、過去に戻ってどんな努力をしても現実は変わらない 

3、その座席には常に白いワンピースを着た女が座っている その席に座れるのはその女が席を立った時だけ 

4、過去に戻っても、席を立って移動はできない 

5、制限時間はカップにコーヒーを注いでから、そのコーヒーが冷めるまでの間だけ

これ以外にも様々なルールがあり、聞いただけで過去に行くのを諦めてしまう人が多い。それでもこの伝説を聞きつけてやって来た人達の心温まる奇跡の物語。

この作品は、「コーヒーが冷めないうちに」の翌年の話として描かれています。

 

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「過去に戻って会った相手の”記憶はどうなるんですか?」そう尋ねたのは、元大学講師の男。相手の記憶に残る事が重要なのだと言います。伝え忘れたことを、伝えておく。過去で起こった事で未来(現在)が変わる事はありません。でも、記憶にはこのルールは干渉しない、というルールの側面がありました。だから過去に戻って伝える、そう決めた男は意を決してその席に座りました。第一話・大事なことを伝えていなかった夫の話。第二話・愛犬にさよならが言えなかった女の話。第三話・プロポーズの返事ができなかった女の話。第四話・父を追い返してしまった娘の話。不思議な喫茶店起こった四つの奇跡。



感想

伝え忘れた事を、伝えておく。それは過去に戻らなくてもできる事です。それは相手が今生きていることが前提。今伝え忘れたことを後悔しているなら、伝えられなくなる前に伝えておくべきだ、とこの本は伝えてくれているのだと解釈しました。それが、自分のためだとしても、相手のためだとしても、伝える事で悪い方へ向かってしまうかは分かりません。登場人物たちは、現実が変えられないという事を分かったうえで伝えたい想いを過去に戻って伝えました。そして、この本の最後のページに書かれた注釈で全て繋がりました。

この物語はフィクションです。実在する人物、店、団体等とは一切関係ありません。ただし、第四話の『父を追い返してしまった娘の話』は、宮城県仙台市のラジオ局『Date fmエフエム仙台)』から依頼をいただき、作者が書き下ろしたラジオドラマ『One more cup of coffee~コーヒーおかわりいかがですか?~』を小説にしたものです。ラジオドラマは、東日本大震災から七年目となる二〇一八年三月十一日に放送されました。

本書より引用

伝えられなくなるなて考えもしなかった日常をあっという間に変えてしまう。それは誰にでも起こりうることで、誰もが考えなくてはいけないことです。今一度、そんなことを考える機会だと感じこの本を読み返した次第です。涙なしでは読めない物語が、重く感じてしまう人もいる事でしょう。誰にとっても素敵で感動する物語なんてないかもしれません。それでも、心温まる時間を欲する人がいるなら、このシリーズを薦めたい、そう思います。

 

おわりに

この物語は、第一作目の「コーヒーが冷めないうちに」の翌年の話として描かれています。なので計と流の子、ミキはまだ赤ちゃんで、過去に戻れるあの席には白いワンピースの女が座っています。その時間の流れも物語を盛り上げる一部の演出だと思います。計が亡くなってまだ間もない時だからこそ愛犬を亡くした男の「一秒でも長く生きて欲しい」という言葉への流の「わかります」は胸を締め付けられます。人はみな少なからず後悔をしながら生きています。その心に寄り添い、干渉せずに気づかせてくれる数のような存在に誰もが出会う事ができたら…もっと素敵な世界になるのにな、と思います。

 

 

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