【小説】「株式会社タイムカプセル社 十年前からやってきた使者」
著者 喜多川泰
2022年4月25日 初版第一刷発行
2022年4月25日 電子書籍版発行
発行所 株式会社ディスカバー・トゥエンティワン
<人生は、いつでも、何度でも、どこからでも、やり直せる。>
ベストセラー作家 喜多川泰さんが描く背中を押してくれる物語。過去でも未来でもない「今、ここ」を生きる事が難しくなった人に贈りたい一冊。
過去からの手紙を届ける事で人々に希望の光を灯す。過去と未来と現在、愛に溢れた言葉は人生を変える重みがある。そんな事を教えてくれる作品です。
あらすじ
45歳で仕事も家族も失った新井英雄。株式会社タイムカプセル社という会社に再就職を果たすも、この会社での仕事は一風変わっていた。未来の自分への手紙を配達する会社。英雄が配属されたのは<特別配達困難者対策室>。様々な事情で配達不能になった人たちを訪ね直接手紙を渡す仕事だ。
上司である海人とともに全国各地に出向き直接手紙を渡すことで、受け取った人も渡しに来た自分にも新たな気づきがあった。
物語は、ある島の中学校で10年前に書かれた手紙を5人の人に届ける任務で出会う人々とのお話。
感想
最初は、どんな物語なのか全く予想できず、気づきを与えてくれる一冊になるとは思いもしませんでした。経営していた会社が倒産し、妻と娘が出ていってしまった45歳の新井英雄。再出発のため面接を受けたのは、「未来の自分に書いた手紙を届ける」という事業の会社でした。不思議な事業だなと思いましたが、実際にもそういったサービス(タイムカプセルの保管やお届けの会社)もあるんだと知りました。そんな会社でも配属されたのが過去に書いた手紙が受け取られなかった(届かなかった)人々に直接配達に行くという部署。届けるだけ、といった簡単な仕事ではありませんでしたが、英雄も驚いたのが、”制服”として渡された真っ白なスーツとハット。劇的なイメージを演出するための物と説明がありましたが、実際に全身白スーツの男が手紙を持って訪ねてきたら非日常感があり印象に残るはずです。そんな気配りや届ける順番など、考えつくされた仕事内容に驚かされたのはもちろん、非日常感が届けられた人々にも様々な影響を与えていく様に心動かされました。忘れていた夢や、過去のしがらみから逃れられず立ち止まっている人の心に光を灯していく言葉を掛ける海人の器に感心させられ、今のこの世の中に必要な核心のようなものを感じました。未来は変えられても、過去は変えられない、そう思っているのが普通でした。しかし、海人の言葉で、過去をも変えてけるような気にさせられます。登場人物たちは、手紙なんかで今の状況が変わるわけないと踏んでいました。きっと自分に同じように届いてもそう感じる事でしょう。それでも届けられた手紙を読んで、海人の言葉を聞いて、確かに何かが変わっていく、そんな様を見せられ、この先の自分を見つめ直す事ができた登場人物たちに自分も投影させ感じるものがあります。「今、ここ」を生きる事で、過去が変わり、未来が変わる。自分にもそんな生き方があるんだと感じられ、明るくなれる、そんな作品でした。ぜひ今立ち止まってしまっている方や、過去に縛られている方に読んでもらいたい1冊です。
著者について
1970年、愛媛県出身。2005年から作家としての活動を開始し、著書累計115万部のベストセラー作家。小学生から年配の方まで幅広い年齢層から愛され、国外でも翻訳出版されている。執筆活動だけでなく、全国各地での講演やセミナーを開催し、出会った人の人生を変える講師として人気を博している。
登場人物の特徴まとめ
登場する人物の特徴をまとめました。もし実写化されるなら…とイメージしながら読むのが好きで勝手に予想したりしています。こんな俳優さんが演じてくれたら、この場面を映像で見てみたい、など想像して楽しんでいます。みなさんなら、どんな演者さんをイメージしますか?
吉川海人
22歳。背が高く細身
若いけど器の大きく、笑顔の素敵な若者。
新井英雄
45歳。前職は経営者
経営していた会社が倒産し、妻と娘が出ていき、この会社に再就職した。
若林麗子
配達者の情報を調べ、配達の順番や手配をする。
西山(社長)
この会社の創業者(創業15年)英雄よりもだいぶ若い(30代?)洞察力が高い。
嶋明日香
25歳。大阪のカフェで働き、友人宅に居候。夢があったが諦めている。
重田樹
38歳。中学校の非常勤講師をしていた元プロゴルファー。現在は妻と娘と離れて暮らす営業マン。
森川桜(本田桜)
25歳。北海道のラーメン店でパートをしている。夫と二人暮らし。過去に縛られている。
芹沢将志
25歳。ニューヨークで暮らす俳優。主演映画が酷評を受け役者の道に悩む。海人とも知り合いだった。
磯川美羽
重田樹の娘。中学3年生。今どきの中学生。10年後の自分に向けた手紙を海人に預ける。
新井美雪
英雄の元妻。娘と実家に戻り生活している。
新井亜利紗
英雄の娘。中学3年生。買ってもらったばかりのスマホに夢中。
吉川空
海人の姉。(ネタバレを避けるため詳細は省きます。)
おわりに
上下真っ白のスーツにアルミのアタッシュケースを持った男が突然「過去にあなたが書いた手紙をお届けに来ました」なんて現れたら、どう思うでしょうか、そしてその手紙にはなんて書かれているのでしょうか、それを読んでどう思うのでしょうか。物語の中に自分を描いてみてもきっと分からないかもしれません。十年、十五年、そんな月日の中で状況はどんどん変わっていくものです。特にこの物語のように15歳から25歳となればいろんな人生があるでしょう。何か気の利いた言葉でも残されていたら、人生は変わるかもしれない、でもそんな重要な事が書かれていなくても、過去の自分の真っすぐさに心打たれ未来を変える力を手に入れた人もいました。あなたなら、どんな言葉を残してみたいですか?言葉は時に力を与え、時に傷つける。そんな言葉の力を描いた深い物語、ぜひ読んでみて下さい。